個人再生をすると、具体的にどこまで借金が減るのでしょうか?
「5分の1まで」「100万円まで」など、いろいろな情報があって、どれが本当かわからないというケースもあります。
そこで今回は、個人再生をすると、実際にどこまで借金が減るのかについて、解説します。
1.個人再生の減額率は、ケースによって異なる!
個人再生をする場合、どこまで借金が減額されるのでしょうか?
ネット上の情報を見ると、「5分の1まで」とか「100万円になる」とか「10分の1になる」など、いろいろな情報があふれているので、どれを信用したら良いのかわからないことがあります。
いったいどの情報が本当なのでしょうか?
実は、上記のうち、どの答えも正しいです。
それは、個人再生の減額率は、ケースによって異なるからです。
個人再生をしたときの借金減額率は、借金額や債務者の財産内容、利用する個人再生の種類、偏頗弁済(一部の債権者にのみ支払いをすること)の有無などによって異なってきます。
以下で、どういったケースでどのくらいの減額率になるのか、順番に確認していきましょう。
2.個人再生の最低弁済額
2-1.最低弁済額とは
個人再生をするとき、どのくらいまで借金が減額されるのでしょうか?
個人再生について定める民事再生法には、「最低弁済額」という決まりがあります。
最低弁済額とは、個人再生をするときに、最低限支払をしないといけない金額です。
個人再生で、最低弁済額を超えて減額されることはありません。
そこで、個人再生の減額率を知りたいとき、まず基準となるのが最低弁済額です。
最低弁済額は、債務者の借金の総額により、異なります。
具体的には、以下の通りとなります。
- 借金額が100万円以下…そのまま(減額なし)
- 借金額が100万円を超えて500万円まで…返済額が100万円になる
- 借金額が500万円を超えて1500万円以下…返済額が5分の1になる
- 借金額が1500万円を超えて3000万円以下…返済額が300万円になる
- 借金額が3000万円を超えて5000万円以下…返済額が10分の1になる
上記のように、借金の総額が大きくなるほど、借金の減額率も大きくなります。
借金が5000万円を超えている場合、個人再生を利用することはできません。
2-2.具体例
いくつか、具体例を挙げます。
借金額が400万円の場合、返済額は100万円になります。
借金額が600万円の場合、返済額は5分の1である120万円になります。
借金額が1700万円の場合、返済額は300万円となります。
借金額が3500万円の場合、返済額は10分の1である350万円になります。
これで、基本は押さえられましたよね?
2-3.住宅ローン特則を利用する場合
個人再生の最低弁済額について、住宅ローン特則を利用する場合に注意が必要です。
住宅ローン特則とは、住宅ローン支払い中の人が個人再生をするときに、住宅ローンの支払はそのまま継続し、その他の借金のみを減額する方法です。
この場合、住宅ローンは減額の対象にならないので、上記の「借金総額」に含める必要がありません。
2-4.具体例
たとえば・・・
住宅ローン残額が4000万円、その他の借金額が1200万円の場合、住宅ローン特則を利用するなら、借金総額は1200万円です。
そこで、借金は240万円となります。
住宅ローンの4000万円は、そのまま支払います。
これに対し、住宅ローン特則を利用しない場合、借金総額が5200万円となってしまいます。
すると、借金総額が5000万円を超えるので、個人再生を利用できないことになります。
もう1つ、具体例を挙げます。
住宅ローン残額が2000万円、その他の借金額が500万円のケースです。
この場合、住宅ローン特則を利用すると、借金総額は500万円となるので、
これが100万円にまで減額されます。
住宅ローンの2000万円は、そのまま支払います。
これに対し、住宅ローン特則を利用しない場合、借金総額が2500万円となるので、返済額は300万円となります。
これにより、住宅ローンの負担もなくなります(ただし、家もなくなります)。
このように、個人再生をするとき、住宅ローン特則を利用するかどうかにより、手続きの利用の可否や手続き後の返済額が大きく変わってくるので、注意しましょう。
2-5.借金額が100万円以下でも個人再生を利用する意味がある?
個人再生をすると、借金が減額されることがメリットだと考えられていることが多いです。
ところが、100万円以下の場合、借金は減額されないのですから、個人再生の意味が無いと思われることがあります。
確かに、一見意味がなさそうにも思えます。
ただ、一定のケースでは、個人再生をするメリットがあります。
それは、借金を滞納しており、債権者が強硬に一括支払いを請求している場合や、給料などを差し押さえている場合などです。
個人再生をすると、借金は強制的に3年の分割払いをすることになりますし、給料の差押えも停止されます。
そこで、たとえ借金額が100万円以下で減額されなくても、分割払いを認めてもらえたり、給与差し押さえを止めてもらえたりするメリットがあります。
これから個人再生を検討するときの参考にしてみて下さい。
3.個人再生の精算価値保障原則とは
3-1.精算価値保障原則とは
次に、個人再生の「精算価値保障原則」に注目します。
個人再生をするとき、必ずしも最低弁済額まで減額してもらえるわけではありません。
債務者に財産があると、その所有する財産の分については、最低限支払をしないといけないという決まりがあるためです。
この決まりのことを「精算価値保証原則」と言います。
債務者が高額な資産を持っているにもかかわらず、その資産を処分することなく、借金だけを減額するとなると、債権者は納得しないでしょう。
また、このような場合、債務者を破産させた方が得だということになってしまいます。
債務者が破産すると、債務者の財産は、現金化されて、債権者に配当されることになるためです。
そこで、債務者が個人再生するとき、破産の方が債権者にとって利益になるということが起こらないよう、所有している財産分については、最低限支払いをすべき、ということになるのです。
精算価値保障原則があるため、債務者が資産を持っていると、思ったよりも借金が減らないことがあります。
たとえば、借金総額が500万円の場合、最低弁済額は100万円ですから、何もなければ100万円にまで減額してもらうことができます。
しかし、財産が200万円分あったら、200万円にまでしか借金が減額されません。
また、財産が400万円あったら400万円までにしか減りませんし、財産が500万円以上あったら借金は全く減りません。
たとえば、相続した不動産などを所有していると、個人再生をしても借金が全く減らないことも多いです。
個人再生をするときには、自分がどのくらいの資産を持っているのかについても、意識して検討する必要があります。
3-2.精算価値保障原則でよく問題になる資産
個人再生をするとき、どういった資産があると借金返済額が上がるのでしょうか?
精算価値保障原則で問題になりやすい資産を確認します。
- 現金
現金を持っていると、その金額がそのまま財産として評価されます。
- 預貯金
預貯金がある場合、預貯金の残高がそのまま資産として評価されます。
ただし、精算価値保障原則で問題になるのは、債務者名義の預貯金に限られます。
家族名義の預貯金がいくらあっても、個人再生の返済金額が上がることはありません。
- 生命保険
生命保険も、財産評価される余地があります。
財産としての価値があるのは、生命保険の中でも積立型のものです。
積立型の生命保険に加入している場合、その解約返戻金相当額が財産として評価されます。
解約返戻金とは、「今解約したら、いくらの金額が返ってくるか」という金額です。
解約返戻金の金額は、加入している保険会社に問合せをすると教えてもらえますし、「解約返戻金証明書」という証明書を送付してもらうことができます。
生命保険の中でも、掛け捨て型の場合には解約返戻金がないので、財産扱いはされません。
また、生命保険についても、財産扱いされるのは債務者名義のものだけです。
家族名義の生命保険は、積立型のものであっても精算価値の対象になりません。
- 株券、国債、投資信託
株券や国債、投資信託等を所有している場合には、それらも財産として評価されます。
これらについては、個人再生手続き開始時の時価で評価されます。
- ゴルフ会員権
ゴルフ会員権を所有している場合にも、財産として評価されます。
これについても、時価による評価となります。
加入しているゴルフ場に証明書を出してもらいましょう。
- 退職金
サラリーマンや公務員の場合には、退職金も財産評価されます。
ただし、実際に退職をしなければならないというわけではありません。
退職金については「見込額」の調査をすれば足ります。
退職金見込額とは、「もし今退職したら、いくらの退職金が支払われるか」という金額のことです。
職場に証明書の申請をすると、退職金証明書を発行してもらうことができます。
ただ、退職金証明書を依頼すると、職場に個人再生を知られてしまい、不都合だというケースがあります。
この場合には、退職金規程のコピーと、自分で計算した計算書を提出すれば足ります。
退職金証明書が必要なのは、勤続年数が5年以上のケースに限られます。
また、退職金見込額全額が財産評価されるのではなく、見込額の8分の1のみが評価の対象となります。
退職金を受けとるのは将来のことであり、確実に見込み通りの金額を受けとることができるとは限らないからです。
- 売掛金、貸付金
個人事業者が取引先などに売掛金を持っている場合や、個人が誰かに貸付をしている場合には、売掛金や貸付金が財産として評価されます。
評価額は、買掛金や貸付金の残額です。
ただし、回収が不可能な場合や困難な場合には、財産評価されないこともあります。
その場合、回収ができないことや困難なことを裁判所に説明し、理解・納得してもらう必要があります。
- 車
債務者が車を所有している場合、車も財産評価されます。
車については、時価が評価額となります。
中古車ディーラーで評価額を出してもらったり、新車購入の下取り価格を出してもらったりして、車の評価額を調査します。
- 不動産
債務者が不動産を所有しているときには、不動産も財産として評価されます。
不動産については、不動産の査定を出して、評価額を調べます。
近隣の不動産屋に簡易査定依頼を出したり、ネット上の一括査定を利用したりすると良いです。
不動産に残ローンが残っている場合には、評価額からローン額を差し引いた金額が不動産の評価額となります。
たとえば、不動産が3000万円、残ローンが2000万円の場合には、1000万円の価値の不動産を所有していることとなります。
3-3.財産隠しをしたらどうなるの?
個人再生をするとき、高額な資産を持っていると、借金があまり減らないので効果が半減してしまいます。
そこで、財産隠しをしようとする債務者がいます。
たとえば、個人再生前に財産を他人名義に変えてしまったり、裁判所に財産があることを報告しないで隠そうとしたりするのです。
このような財産隠しが見つかると、裁判所は個人再生の手続きを途中で廃止してしまう可能性があります。
また、途中で廃止されなかったとしても、再生計画が不認可になって個人再生に失敗する可能性もありますし、再生計画が認可されたとしても、手続き後に財産隠しが発覚すると、再生計画の認可決定が取り消される可能性があります。
そればかりではなく、「詐欺再生罪」という犯罪が成立してしまうおそれもあります。
詐欺再生罪が適用されると、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金刑あるいはその両方が科される可能性があります。
刑罰が科されたら、一生消えない前科がついてしまうのです。
結局、個人再生で財産隠しをしようとしても、失敗してしまいますし、それ以上のリスクを背負う可能性が高いです。
精算価値保障原則のせいで支払金額が大きくなってしまうとしても、財産隠しだけは、絶対にしてはいけません。
4.小規模個人再生の場合の減額率
以上より、小規模個人再生をするときには、個人再生の支払額は、以下の2つのうち高い方の金額となります。
小規模個人再生というのは、サラリーマンや公務員、年金生活者や自営業者、アルバイト、パートなどが広く利用できる、一般的・原則的な個人再生の方法です。
- 民事再生法が定める最低弁済額
- 債務者が持っている資産の総額
特に資産がなければ最低弁済額にまで減額してもらうことができますし、最低弁済額を超える資産があれば、資産総額までの金額は支払わなければならない、と覚えておくと良いでしょう。
5.個人再生の可処分所得の2年分について
個人再生には、小規模個人再生と給与所得者等再生という2種類の手続きがあります。
小規模個人再生についての借金の減額率は上記で説明した通りなのですが、給与所得者等再生の場合、もう1つの要件があります。
給与所得者等再生の場合、「可処分所得の2年分」以上の金額を返済しなければならないという条件が足されます。
可処分所得というのは、年収の金額から、税金や保険料などの必要経費の部分を引いた後の、債務者と家族が最低限の生活をするために必要な金額のことです。
給与所得者等再生をするときには、その2年分を最低限支払わないといけません。
可処分所得の2年分には専門的な計算方法があり、債務者の年収や居住地域などによって異なります。
ただ、多くのケースで、最低弁済額や精算価値保障原則での債務者の財産額よりも大きくなります。
そこで、給与所得者等再生をすると、小規模個人再生をするよりも、債権者への返済額が大きくなることが多いです。
6.給与所得者等再生の借金減額率
給与所得者等再生を利用するとき、債権者への返済額は、以下の3つの中でもっとも高額になる金額です。
- 民事再生法による最低弁済額
- 債務者が所有している財産の額(精算価値保障原則)
- 可処分所得の2年分
7.小規模個人再生と給与所得者等再生のどちらが得か?
7-1.給与所得者等再生を利用できる人
給与所得者等再生を利用できるのは、サラリーマンや公務員などの給与所得者です。
年金生活者でも、収入が安定しているので給与所得者等再生を利用できる可能性があります。
そして、給与所得者等再生を利用できる場合でも、小規模個人再生を利用することができます。
そこで、これらの人が個人再生をするときには、小規模個人再生か給与所得者等再生の、どちらか有利な方を選ぶことができます。
7-2.給与所得者等再生を利用するメリット
小規模個人再生をすると、給与所得者等再生よりも大きく借金を減額してもらうことができる可能性が高いです。
そこで、給与所得者であっても、多くの場合には小規模個人再生を利用しています。
そうだとすると、給与所得者等再生を利用するのは、どういったケースなのでしょうか?
給与所得者等再生のメリットはどこにあるのかを説明します。
給与所得者等再生をする場合、債権者による書面決議が不要となります。
書面決議というのは、再生計画案に対する意見を出す手続きです。
小規模個人再生をするときには、債権者の過半数が再生計画に異議を出すと、再生計画が認可されずに手続きが廃止されてしまいます。
そこで、多くの債権者や大口の債権者が個人再生に反対しているとき、小規模個人再生をしても借金を減額することができません。
これに対し、給与所得者等再生を利用するときには、債権者が反対していても再生計画が認可されます。
可処分所得の2年分という高額な支払いをする分、債権者には反対する権利が認められないと考えてもかまいません。
そこで、サラリーマンや公務員が個人再生をするときに、債権者の反対が怖い場合には、給与所得者等再生を利用する価値があります。
8.財産を不当に処分した場合の増額
個人再生をするとき、ここまで説明した以外に、イレギュラーに債権者への支払金額が増やされる場合があります。
1つ目のパターンは、債務者が不当に財産を処分した場合です。
個人再生には精算価値保障原則があるため、財産があると支払金額が高くなってしまいます。
そこで、債務者が故意に財産を処分・毀損してしまったり、譲渡を仮装してしまったりすることがあります。
財産隠しと同じようなことです。
このような詐害的(さがいてき)な行為をした場合にまで、債務者の支払額を減額する必要はありません。
そこで、財産の処分・毀損や譲渡などがなかったものとして財産額が評価されます。
つまり、事前に処分や譲渡をした財産も足した金額の支払いが必要になってしまうということです。
すると、財産を処分した分、財産は失うことになり、しかも借金は減らないということになって、踏んだり蹴ったりの結果になります。
個人再生で財産隠しすることによって支払いを免れようとしてもうまくいかないので、絶対に辞めましょう。
9.偏頗弁済のケースの増額
個人再生でイレギュラーに債権者への支払額が増額されるパターンは、もう1つあります。
それは、特定の債権者にだけ返済をした場合です。
このように、特定の債権者だけを優遇することを偏頗弁済と言います。
個人再生では、すべての債権者を平等に扱わないといけないという債権者平等の原則が働きます。
偏頗弁済は、債権者平等の原則に反することになるので、許されません。
そこで、偏頗弁済したことが判明すると、偏頗弁済した金額を上乗せして、債権者に支払わないといけない事になります。
たとえば、本来なら200万円の支払いで済むケースでも、50万円偏頗弁済していたら、全体として250万円を返済しなければならなくなります。
個人再生をするとき、知人や親戚などから借り入れている場合や、保証人つきの借金がある場合、どうしてもそうした債権者に支払いを続けたくなってしまいます。
しかし、偏頗弁済をすると支払い額が上がってしまったり、悪質な場合には再生計画を不認可にされてしまったりするおそれもあるので、絶対に辞めましょう。
10.減額された借金の返済方法
個人再生で減額された借金は、どのようにして支払っていくのでしょうか?
支払い開始は、個人再生で再生計画認可決定が確定した月の翌月からです。
再生計画が認可されてから確定するまでは1ヶ月くらいかかるので、支払い開始は、再生計画認可決定から2ヶ月後くらいからです。
そして、支払期間は原則3年です。
そこで、個人再生後に残る借金を36ヶ月で割った金額が、月々の返済額です。
ただし、どうしても3年での返済が苦しい場合には、5年にまで延長してもらうことができます。
また、個人再生後の支払いは、通常3ヶ月に1回まとめ払いします。
3ヶ月に1度、3ヶ月分を支払うので、1回の支払額はかなり大きくなります。
そこで、日々の生活において、毎月の収入を使い切るのではなく、個人再生の支払い分はきちんと取り置いておくことが必要です。
再生計画に定めた通り、3年(5年)間の返済を終えると、無事に借金を完済したことになります。
まとめ
今回は、個人再生での借金の減額率について、解説しました。
個人再生をすると、最低弁済額と精算価値保障原則のうち、どちらか高い方の支払いが必要となるのが原則です。
ただし、給与所得者等再生をするときには、可処分所得の2年分以上の支払いが必要となります。
また、財産隠しをした婆慰謝料や偏頗弁済をした場合には、借金返済額が上乗せされてしまいます。
こうした詐害的(さがいてき)な行為をすると、個人再生が廃止されたり再生計画が不認可医なってしまったり、詐欺再生罪が適用されてしまったりするおそれもあるので、決して行ってはなりません。
効果的に借金を減額し、個人再生を成功させるためには、債務整理に強い弁護士や司法書士の力を借りることが有効です。
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